私が柔軟を終えると、ちょうど他の部員達がランニングから戻ってきた。
「あ、広瀬先輩、おはようございます!」
元気よく挨拶をしてくれる後輩ちゃんに、こちらもおはよーと挨拶を返す。うんうん、やっぱり入りたての一年生は初々しくていいね!
だというのに……
「お、おはようございます結衣先輩。今日は早いですね」
「あーあ、予想がはずれちゃったか」
「ふふ、よくぞこの時間に来た!」
二年、三年は挨拶もそこそこに私が来た時間の確認をし、一喜一憂している。
要するに、私がいつ来るのか賭けているのだ。
しかも、時間に間に合うという予想が一番の大穴という不名誉ッぷり。朝練に間に合わない方が人気高いってどういうことよ。
ええ、わかっていますよ。日ごろの行いが全てだってことくらいは。
予想が外れた人は部室の貯金箱に100円を奉納し、集まったお金は遠征のバス代やドリンク、備品の購入に充てられる。
ちなみに、私は間に合わなかった場合に支払うことになっている。いくら奉納したんだろう……考えたくもない。
「ん、全員戻ってきたわね?じゃあいつもの筋トレやって、終わった人から解散!」
みんなの息が整ったのを見計らい、雅が号令を下す。
その号令に従い、みんなが一斉に腕立てを始める。もちろん私もだ。
朝の清涼な空気の中、私達のいる一角だけ熱を帯びるている。
荒い呼吸の音だけしか聞こえてこないこの空間は、一種の聖域とも言えるだろう。
「……よし、終わり!」
一番に終わったのは私だった。まぁいつものことである。ランニングに行ってないから体力余ってるし。
「ふぅ、おしまい」
次に終わったのは雅。さすが部長。
大体いつも、私が一番、雅が二番に終わり、そこから後は大体学年順に終わっていく。私も雅も短距離だからね、筋力がないとお話にならないのさ。
まだ筋トレをしている子達に軽く声をかけ、部室に戻って着替えを始める。
これで、学校にシャワールームでもあったら完璧なんだけどねぇ……。
公立校にそんなのを求めるのは酷なんだけど、だんだんと暖かくなってくると、どうしても汗が気になるのだ。
タオルと制汗スプレーで極力臭わないように気を配るのも、中々大変なのですよ。
「雅、支度できた?」
「ええ、じゃあ行きましょうか」
さて、今日も一日頑張りますか。