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2018/11/15 13:51 |
無題
深く息を吸い、ゆっくりと吐いていく。

それを何度か繰り返し、身体にエンジンがかかったのを確認すると、私はスターティングブロックに足をかけた。

グッと足を押し付け、感触を確かめ、地面に指をつく。

あとは、ヨーイドンで走りだすだけだ。

目を閉じて、周りの空気を感じ取る。

この、走り出す直前の、緊張と興奮が入り混じったようなテンションが、とても好きだ。

だんだんと神経が研ぎ澄まされるのがわかる。

さっきまで聞こえていたはずの野球部のノック音も、吹奏楽部の練習音も聞こえない。

聞こえてくるのは、風の音と、自分の鼓動の音だけ。

目を開く。

見据えるのは、ゴールの先、ただ一点。





「用意」

腰を高く上げ、スタートの構えを取る。

大きく息を吸い込み、とめる。

よし、いこう。

笛の音が聞こえるのと、私が勢いよく飛び出していくのは、ほとんど同時だった。






「はー、やっぱり広瀬先輩って凄いですね」

記録をとっていた1年生が、自身の持つストップウォッチを見て、感嘆の溜息を漏らす。

そこには、一緒に走っていた3年生と1,5秒ほども開きがあるタイムがはじき出されていた。

「ほんと、何でこの高校に来たんだろうね。中学の頃から凄かったらしいから、推薦でもっといいところにいけたはずなのに」

記録表に記入していたもう一人も同意する。

実を言うと、この高校では、あまり部活は盛んではない。

こういうと語弊が生じるかもしれないが、原因は単純明快。中途半端に田舎だからだ。

住宅地の真ん中に位置するこの高校は、とにかく土地がない。グラウンドも全体でひとつだけだ。

ひとつのグラウンドで野球部、サッカー部、ハンドボール部、ソフトボール部、そして陸上部が一度に活動できるはずもなく、どこかがグラウンドを使わない練習をしたりして、ローテーションでグラウンドを使いまわしているのだ。

また、都合よくそれぞれの部活を指導できる教師がおらず、名前だけ貸して、練習を見に来ることすら稀なこともある。

陸上部も例に漏れず、進入部員の数を確認しに来たきり、顧問は顔を出していない。そのせいか、男子部は半分ほど帰宅部と化している。

それでも部員のモチベーションが下がらないのは、ひとえに結衣の存在があるからだろう。

独力でとんでもないタイムをたたき出す結衣は、新入生たちの憧れの的なのだ。……朝の壊滅的な様子をみるまでは。

「二本目始めるわよ!計測大丈夫!?」

「は、はい!」

「大丈夫です!」

雅の声に、二人は大きく返事を返す。

いつか、ああなりたい。

そう思いながら、二人は再びスタート位置につく結衣をみるのだった。
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2008/04/14 11:53 | Comments(0) | TrackBack(0) | SS

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