せっつかれたので書きました。ノープランだから展開が全然思いつかない。今回もほとんど進んでませんよ。
その後も生活態度についてあれこれとお小言が続く。
粛々とご注進を受けとめ、前向きに善処する宣言でようやく解放され、母の病室に向かえるようになった。
この病院の最上階である3階の、一番隅にある非常階段横の部屋。ここに、私の母が入院している。
父と一緒に正月に来て以来なので、もう5ヶ月も逢ってないのか。
さてと。
ドアを軽くノックして、返事を待つ。
「は~い」
返事が聞こえたのを確認して、私はドアを開けた。
何回来ても、この瞬間は緊張するものだ。
……ひょっとしたら、二度と返事が返ってこないかも知れないのだから。
暗い想像を振り払い、部屋へと入る。
白い壁に覆われた部屋の中。
清潔というよりは空虚な印象を与える一面の白の中で、母はベッドから身を起こし、穏やかに微笑んでいた。
「久しぶり、お母さん」
「久しぶりね、結衣ちゃん」
ベッドへと近づきながら、五ヶ月ぶりの母をしっかりと見る。
前と比べて、また肌の色が薄くなった気がする。髪もきちんと整えられてはいるが、基本的に部屋の中で過ごしているせいだろう、ずいぶんとくすんでしまっている。
しっかりとした食事も摂れないために、以前はふくよかだった身体も、今では見る影もない。
なにより、左腕から出ている点滴のチューブが痛々しい。
それでもなお、母は私に微笑んで見せるのだ。
「ごめんね、あんまりお見舞いに来れなくて」
ベッドの横に置いてある椅子に座り、母と目線を合わせる。
「気にしないでいいのよ。結衣ちゃんは忙しいんだし、むしろこんなところまで来てくれて、お母さんとっても嬉しいんだから」
「ホントはお父さんと一緒に来れたらよかったんだけど……」
「仕方ないわ。あの人は私のために頑張ってくれてるんだから」
ここは伯父の経営している病院。
さりとて、病院である以上、便宜を図ってもらっているとはいえお金というのはどこにでもついてくるもので。
そのため、父は仕事に奔走し、私は奨学金を目指していると、そういうわけだ。
母は寂しそうに苦笑を浮かべ、視線を一枚の写真に向ける。
それは、私の中学の卒業式の写真。
家族三人で最後に撮った写真だ。同時に、母が健康だったときに最後に撮った写真でもある。
式に感動したのか、それでも泣くまいと顔を赤くしてこらえている父と、そんな父に中てられて、同じく泣きそうな顔をしている私。そんな二人を見て、嬉しそうにボロボロ泣いている母。
そんな三人の姿が、そこにあった。
ほんの少しの沈黙。いつもの沈黙の時が流れる。
あぁ、またか。やばいなぁ。
「広瀬さん、午後の検診の時間ですよー」
「あ、はーい」
今回の沈黙を破ってくれたのは、回診の先生だった。先生ナイス。
「じゃあ、私は少し出てるね」
なんとかこらえ、席を立つ。
「ごめんなさいね、折角来てもらったのにすぐ検診の時間なんて」
「大丈夫。ちょっとその辺でも走ってくるから」
申し訳なさそうな母に手を振りながら、先生と入れ違いに病室を出る。
向かう先は一つ。トイレだ。
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